冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ルーシャ、あなたなのね。

間違いない。あの約束のことを知っているのは、ルーシャと自分の二人だけだ。

いつの間に・・・・どうやって・・? あなたはいまどこにいるのーーー

思わず部屋を見回すけれど、むろん誰の気配もない。

布をといて、もう一度じっくり絵を見つめる。踏みにじられた姿だけれど、今は微笑んでいるルーシャをそこに描くことができた。

その夜フロイラは、まんじりともせずにベッドの中でひたすら夜明けを待った。
裏庭の二人の秘密の場所。レンガ塀と木の幹のあいだの隙間だ。
ルーシャはそこで待っている。約束したのだから。

サロンの大広間の大時計が、時刻を打つ音にじっと耳をすませる。

12回・・1回・・3回・・・そして4回打ち終えるのを聞いて、フロイラは暗がりのなかで身を起こした。

まだ夜は明けていない。けれどもうじっとしていられなかった。
肩にショールをはおって、部屋を出る。

さて、いまの時間は邸の外に番犬が放してあるはずだ。苦い教訓がよみがえる。
あの後、フロイラを襲わないようにしつけてくれたというから、今はそれを信じるしかない。
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