冷徹侯爵の籠の鳥～ウブな令嬢は一途な愛に囚われる～

ヴィンターハルター家への忠誠篤い医師と、ごく近しいメイド数人のみの立会いで、出産はひっそりと行われた。

母の願いを裏切り、生まれたのは健康な男児だった。
父によって「クラウス」と名付けられ、表向きは「ルシアナ」という女児として、この世に生を受けた。

体が弱いと称し、極力人前に出すことを避けた。
少女に見せるため、特徴的な赤黒複色の髪はかつらで隠し、常に体をおおうドレスを着せ、親族の悪意の手が及ばないようにしていたのだ。

クラウスは父が語ることを理解した。自らに課せられた運命を。置かれた境遇を。
それは理解というより諦めに近かった。

この先ずっと少女と偽り、人目を忍んで生きてゆかなければならないのだ。男だと知られれば、この身は危険にさらされるのだから。

もう一生、外を自由に駆け回れることも、成長したら父のような姿になることも叶わない。

母のように痩せて青白い顔をして、いつも何かに怯えるように部屋に閉じこもって暮らすのだ。

「分かったわ、お父さま」
拗ねることも、ごねることも、泣くこともせずに、そう答えた我が子を、父は言葉もなく抱きしめた。