冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ときに、子どもでいることを許されない子どもたちがいる。

先天的に重い病気を抱えている子どもなどがそうだ。諦め受け入れることに慣れ、大人にならざるをえない子どもたち。

クラウスもまた、達観、諦念、内省といったものを自分の内に育てながら、ルーシャとして生きなければならなかった。

楽しみといえば、読書くらいだった。なにせ一日中ほとんど部屋の中なのだ。
読み書きができるようになるや、むさぼるように本を読んだ。

やがてそんな生活にも変化が訪れた。
療養という名目で、母とともに湖畔地方の屋敷に引っ越したのだ。

後で知った話だが、その屋敷にはかつて母の親類が住んでいた。
幼い頃、母がよく滞在した思い出深い場所であり、母のために父が手を尽くして用意したのだ。

そんな父の努力も、母の心身の衰弱を回復させることはできなかったが。
ルーシャとして生きるクラウスは、いくらか生気を取り戻していた。

庭園に出て自由に駆け回ることができたし、ときにメイドと一緒に町にお使いに出かけることもあった。
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