冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~



「ーーー失礼いたします」

「ああ、」

クラウスのかたわらにひざまずいて、包帯をほどき消毒薬で傷口を拭く。

ずらりと並ぶ犬の牙の跡を見るたびに、やはり罪悪感に苛まれる。
ひょっとしてこうして自らの罪状を目の当たりにさせるために、包帯の取り替えを命じられているのではないかとも思う。


「だいぶ上達したな」
ぼそっとクラウスがつぶやいた。

「・・・恐れ入ります」

いま、包帯を余計に巻きつけてしまった気もする。息を詰めて、意識を手元に集中する。

「怪我をしたのが、お前でなくてよかった」

えっ? いまなんて・・・
空耳ではない、たしかに・・・

焦って包帯がうまく結べず、何度かやり直して、ようやく不恰好に結ぶと、
「し、失礼します」と頭を下げたまま逃げるように部屋を後にする。

顔が熱い。クラウスの顔をまともに見られなかった。

どうしてそんなことを口にするの・・・
胸に手を当てて、大きく息をつく。

鼓動はなかなか静まりそうもない。
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