冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
*   *   *


フロイラ様、舞踏会はいかがでしたか?

翌日、好奇心に目をキラキラ輝かせながら聞いてきたアンナ・マリーに、「夢のようだったわ」と正直に答えた。

この気持ちはなにかに似ている、と思ったら、あの時だ。
初めてルーシャの住む屋敷に招いてもらったとき。おとぎ話の主人公になったようなあの心地。

本来なら足を踏み入れることのない場所で、夢のような時間を過ごして。
でもそれはやっぱり夢だ。現実に帰らなければいけない。

昨夜、クラウスは終始フロイラをエスコートしてくれて、紳士然として振舞っていた。
夢の続き、というように帰りの馬車の中でも、フロイラを抱き寄せてくれたから、クラウスの肩に頭をもたせて馬車に揺られていた。

つまるところ自分の存在は、クラウスの言うところの “女よけ” であり、あの振る舞いは、彼が社交の場でしぶしぶつける侯爵の仮面だ。

何かを期待してはいけない。
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