冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~


「今夜は月がきれいですよ」
夕食の給仕をしながら、リュカがクラウスにさりげなく告げている。

そうなのか、と耳にして思わず窓を見る。
方角が違うようで、食堂の窓から仰ぎ見ることはできなかった。

夕食の後、二階に上がる階段の踊り場にあるバルコニーで足を止める。

本当にきれいだわ。
銀色の鏡のようだ。
カチャ、と掛け金を外して、誘われるようにバルコニーに出る。

清かな光が世界を銀色に染めている。こうしていると体も心も洗われるようだ。
華やぎと興奮と音楽に満ちた昨夜の舞踏室の記憶がかえす波のように、寄せては引いてゆく。

夢の続きがみられたら・・・なんて願ってしまう。

「見事な月だな」

びっくりして振り返ると、いつの間にかクラウスがすぐ後ろに立っていた。
同じように、月を見上げている。
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