お見合い相手は冷血上司!?
「逃がさないと言っただろうが」

 乱暴に打ち付ける雨音の中がぼんやりと遠くに感じて、熱っぽく低い声が、私の鼓膜を刺激した。
 目の前で見つめる熱に揺れる彼の瞳は、ぞくっとするほど美しく、私の胸を痛いほどに高鳴らせる。

「ま、また、誰かを好きになるのが怖いんです。これ以上甘えるだけ甘えて、結局課長を傷付けることになったら……」

 この顔が悲しみに歪む顔は、見たくないと思った。けれど私には、手放しにその胸に飛び込む勇気もない。

「だからバカだと言ってるんだ。俺を誰だと思っている。お前に俺の一生を捧げてやると言ってるんだ。その言葉、貫かないと思っているのか?」

 からかうような口調とは裏腹に、私の頬を撫でる彼の手のひらは溶けるほどに温かかった。

「さっさと諦めて、俺を好きになれ。……幸せにしてやる」

 優しい声に、切なさが胸を突き上げる。
< 109 / 195 >

この作品をシェア

pagetop