お見合い相手は冷血上司!?
 いつもは綺麗にまとめられた艶やかな黒髪が白い肌に落ちていて、それを一筋、そっと掬い上げる。
 覗く睫毛が電気を感じたようにピクリと跳ねるけれど、慌てて手を離すと、それはまた心地良さそうに揺れた。

 愛しいと感じるのは、今日の彼だから。
 そう言い訳みたいな言葉を自分に重ねては、寝息を立てる彼の胸元に頭を預けた。

 抱き枕は、何も感じない。
 抱き枕は、中身が綿だもの。

 目を閉じると、爽やかな柑橘系の香りが簡単に私の熱を呼び戻した。
 眠れるわけがない……。
 長いため息をつくと、突如部屋に響くインターホンのような音に私は身体ごと跳ね上がった。
 課長もモゾモゾと動き出し、不機嫌そうに目を開く。

「課長、誰か来たみたいです」

「放っておけ。こんな時間だ。どうせロクでもない」

 再び目を閉じた彼は、動く気はなさそうだ。
 しかし、来客の音は諦めるどころか、課長の対応を分かっているかのように絶え間なくなり始める。
< 139 / 195 >

この作品をシェア

pagetop