お見合い相手は冷血上司!?
 ひどく心配する桃を宥めて、デスクに戻る。
 何事もなかったように手はキーボードを叩き、どこかに取り残されたような頭を、必死に動かそうとした。
 しかし、次第に手は止まり、頭は、更に遠くに行ってしまう。

「鈴原さん。ダズリン・アントワネットのパンフレット上がりましたよ。置いときますね」

「ありがとう。確認しておくね」

 平然と返答をしている口が、別の生き物のように感じられた。

 電話番号も知らない。
 どうしてこの仕事をしていたのかも知らない。
 あの話が、何だったのかも分からない。

 怒りにも似た激しい感傷が鋭く胸を過ぎり、目頭がグッと熱くなった。
 それを必死に堪えようと瞼を閉じると、そこには彼と過ごした思い出が広がる。

 ……今すぐ、あなたの声が聞きたい。
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