お見合い相手は冷血上司！？

「あ、ごめん電話だ。ちょっといい？」

「もちろんです」

　机の上で振動し出した携帯電話を手に、彼は私に背を向けて話し出す。
　私は未だ滲む涙を拭いながら、胸に広がる確かな想いにほっと息をついていた。

「えっ？　何だよそれ！　一体どういうことだよ！！」

　すると突然部屋中に響き渡った怒声に、思わずビクリと身体が跳ねる。

　……何かトラブルかな？

　帰る準備をしておいた方が良さそうだとテーブルの上を軽く片していると、彼は血相を変えた様子でこちらを振り返った。

「亜子さん！　今から時間ある！？」

「えっ……は、はい。大丈夫です」

「じゃあ、ちょっと一緒に来て！」

　私の手を掴んだ彼は、飛ぶような速さで走り出す。
　店の前でタクシーを拾うと、彼は私を詰め込み、自身も飛び乗った。

「すぐに空港まで！　すみませんが急いでください！！」

　その言葉を聞いて、途端に嫌な予感が背中を流れる。
　彼はタクシーが走り出しても何も言わず頭を垂らしていて、その姿が私の不安をより一層増幅させた。