お見合い相手は冷血上司!?
 フロリダ――
 頭の中で繰り返される単語に何度も足を止められそうになりながらも、翔けるように走る。

 ここで会えなかったら、もうあの優しい薄笑みは見ることが出来ない?
 あの温かく力強い腕に、抱き締めてもらうことも出来ない?
 頬をするりと撫でる指を感じながら、キスすることも……出来ない。

『――からオーランド・フロリダへご出発のお客様にご案内致します。……、オーランド・フロリダ行き、定刻十時三十二分発、……便をご利用のお客様は、ただ今、五番ゲートよりご搭乗を開始致します。ご搭乗のお客様は、五番ゲートよりご搭乗下さい。今日も……をご利用下さいまして、ありがとうございます。Passengers on ――」

 チャイムのような効果音が鳴り響き、フロリダ行きを知らせるアナウンスが耳に届いた。
 いつもより周囲の音が大きく聞こえるような気がして、全神経を鼓膜に集中させるようにして耳を澄ませると、あとに続く英語のアナウンスを聞きながら搭乗口へと走る。

 五番ゲートを見つけると、乱れた呼吸を整えながら辺りを見渡し課長らしき人を探した。
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