お見合い相手は冷血上司!?
「話? 何の話だ。いいから乗れ。それに、特に予定もないだろう」

 悔しいけれど、確かにそれを理由に断るような予定は何もなかった。

「……どこへ行くんですか?」

「いいから、早く乗れ」

 心の中での葛藤の末、これ以上断っても無駄だと結論を出した私は「お邪魔します」と遠慮がちに助手席へ乗り込んだ。
 すぐにドアが閉められて、緊張で顔が引き締まる。

 するとボディと同じく黒で基調とした車内には、シートの上質な革の香りと共に、課長の香りが漂う。
 途端にシートに持たれることが出来なくなって、手は膝に、背筋はピンと伸びた。

「シートベルト」

「は、はい……」

 震える手でシートベルトを締めると、車は静かなエンジン音と共にゆっくりと進み出す。

 あぁ、いよいよ逃げられない。

 未だ何も話そうとする様子のない彼を横目に見ると、その横顔は前だけを見つめていて、ハンドルさばきは腹立たしいほどに冷静だ。
 
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