お見合い相手は冷血上司!?
「なぜ謝る? 寝てろと言っただろ」

 すると手を引かれて車から降りた私の肩を、心地の良い重さが包んだ。まだ温かいそれからは、いつもより濃い爽やかな香りがして、すぐにそれが彼のジャケットだとわかった。

「思ったより冷える。着ていろ。俺のだが、風邪を引くよりはマシだろう」

「あ、ありがとうございます」

 シャツ姿の彼は、腕を伸ばし、運転で固まった身体を軽く解している。
 私は動く度に自身から香る彼の香りに、身体中がカッと熱を持ち、いたたまれなくなった。

 優しい課長など、調子が狂ってしまう。

「時間がない。行くぞ」

 歩き出す課長の後を追い辺りを見渡すけれど、駐車場らしき場所には必要最低限ほどの街灯しかなく、ここがどこなのかはまるで分からなかった。
 吹く風が冷たく、恐らく私たちが住む街よりは、自然が多い場所のように感じる。

「課長……。あの、ここは?」

 すると徐に足を止めた彼は、高く空を仰いだ。
 追うように視線の先を辿ると、木々の間から覗く建物に、私は一瞬、息の根が止まってしまったかのような衝撃を受ける。
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