お見合い相手は冷血上司!?
 心地良いメロディに乗って、星座を説明するアナウンスが流れる。
 ゆっくりと後方へリクライニングするシートに身体を預けると、本物の星空に負けずにも劣らない輝く空を見つめた。

 課長も何も言わず、空を見上げている。
 引かれていた手は、今はひじ掛けの上で重なり合うように置かれていた。

 今だけは、震えそうになるこの手を包む温かい手に、限りない安堵を感じる。

『北斗七星の並びは、春の星座を探すのに最適な目印になります。この北斗七星の柄杓の取っ手の方を――』

 ……私は、ここに来るはずだった。

 流れる空を見ながら、もう思い返すこともないと思っていた記憶の断片が次々と蘇ってくる。
 ギュッと目を閉じると、繋がる手に、力が込められた。

「……ちゃんと見ろ」

 低く囁く声に、深呼吸しながらゆっくりと固く閉じたまぶたを開ける。
 吸い込まれそうな広い空は、私を過去に連れていった。
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