お見合い相手は冷血上司!?
 会社で婚約が破談になったと噂になって、慰められても、哀れみの目で見られても、涙が出ることはなかったというのに。

 どうして、今――

 唇を噛み締めるけれど、鼻の奥がツンと痛み、目の縁からは温かい涙が染み出てくる。
 視界がぐにゃりと歪み、次の瞬間、感情が堰を切って溢れ出した。

 拭っても、拭っても、涙は留まることを知らず、膝に敷いた課長のジャケットに、次々とシミを作っていく。

 まるで枯れない泉のように、次々と溢れ出るそれを止める術を知らない私は、初めて、子供のように思うままに泣いた。

『少し南の方に進んで、春の大曲線のこの二番目の明るい星は、おとめ座のスピカという一等星です。モデルになったと言われている、正義の女神アストレアが片手に握っているのは、善悪を書き記すペンなのです――』

 課長は慰めることも、こちらを見ることもなく、満天の星空を仰ぎ、ただ一言。

『……綺麗だ』

 と呟いた。
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