お見合い相手は冷血上司!?
「こいつが人を愛した時、一体どんな表情をするのかと、興味が湧いた。
 ――その顔を俺に向けさせたいと思った」

 徐々に淡く、柔らかくなる声に、頬はじんわりと熱を持つ。
 その熱が感じさせる居心地の悪さに、これ以上離れられないと分かっていても、私はドアに頭を付けるように精一杯距離をあけた。

「あの時のお前を見て、スタート地点に立つなら、まずここに来る必要があると思っていた。立ち止まった人間は、後ろも見えないが、先にある景色も見ることは出来ないからな」

「……先に、ある景色」

「あぁ。前を向いていないと、見えて来ないものはたくさんある。それを見ないフリをするのも自由だが、俺は……お前には顔を上げていて欲しい」

 温かい感情が、胸の中に波のように広がる。

 目頭が熱くなり、枯れたと思っていた熱が、また溢れそうになったのをグッと堪えた。
< 79 / 195 >

この作品をシェア

pagetop