とりまきface
「白石遥人さんですよね?」
工場長にフルネームで呼ばれ、遥人は面食らった。
「ええ。ありがとうございます」
遥人は缶コーヒーを受け取りながら返事をした。
「菜々をしっかり怒らせたみたいですね……」
「やっぱり、そうですか…… ところであなたは?」
「申し遅れました。私は菜々の兄の桜井睦です。妹がお世話になっています」
「お兄さん…… それで……」
遥人は兄だと解り自分がほっとしている事に驚いた。
「菜々の奴から、あなたの事は嫌という程聞かされていましたから……」
「えっ。俺の事を?」
「菜々は、あなたの事が大好きで、大好きで…… 毎日、あなたの表情やら仕草を聞かされていました……」
「どうして俺を……」
「う―ん。なんだか空港の展望台で見かけて、自分と同じ飛行機の離陸の瞬間が好きな人だとか…… 菜々の奴、昔から飛行機が大好きでね……」
「全然しらなかった……」
「菜々はああ見えて、男が苦手というか誤解されやすくて彼氏がまともに居た事ないんですよ…… それで、あなたにどう接していいか分からなくて、ずっと悩んでいたんです」
「ええっ。そんな風には見えないのに…… 美人で男を口説くなんて簡単なんじゃないかと…… あっ、すみません……」
「まあ、あの性格ですから一見そう見えてしまうんですよ。それに、あなたに彼女が出来た時は、それはもう落ち込んで朝まで大泣きして、呆れるくらいでしたよ」
「……」
遥人は何も言えなかった……
「菜々は、そんな子です。でも、決して好きだった人の彼女に嫉妬して嫌がらせをするような子では無いです。ましてや、仕事への支障を出す事は絶対無い! 菜々は、仕事に対しては真剣で妥協しない子ですから…… すみません、兄バカで……」
「申し訳ない…… 俺は、彼女を深く傷つけてしまった……」
睦は手にしていた缶コーヒーを一気に飲み、大きく息を着いた。
「いいえ。分かって頂ければいいんです。ただ、兄として言わせてください。菜々をそんな風にしか見ていなかったあなたには、正直幻滅しました。菜々も、やっとの思いであなたへの感情に蓋をしようとしています。これからも、あなたの部下として働くために…… ですから、もう中途半端な気持ちで菜々には近づかないで下さい。これ以上傷つけたく無いんです」
睦は冷静だが、厳しい口調だった。
「はい……」
遥人はただ下を向いて返事をする事しか出来なかった。
睦の兄としての想いは、遥人にもよく分る。
「でも、もしあなたが本気で菜々に惚れる事があるとしたら…… 菜々の一度閉じた心を開くのは大変でしょうね…… 菜々は、頑固だから……」
「そうでしょうね……」
遥人は菜々の姿を思い出し、ふっと笑った。
「まあ、工場長としては、発表会の成功を祈っています」
「ありがとうございます……」
遥人は、色々な意味を込めて深々と頭を下げた。
工場長にフルネームで呼ばれ、遥人は面食らった。
「ええ。ありがとうございます」
遥人は缶コーヒーを受け取りながら返事をした。
「菜々をしっかり怒らせたみたいですね……」
「やっぱり、そうですか…… ところであなたは?」
「申し遅れました。私は菜々の兄の桜井睦です。妹がお世話になっています」
「お兄さん…… それで……」
遥人は兄だと解り自分がほっとしている事に驚いた。
「菜々の奴から、あなたの事は嫌という程聞かされていましたから……」
「えっ。俺の事を?」
「菜々は、あなたの事が大好きで、大好きで…… 毎日、あなたの表情やら仕草を聞かされていました……」
「どうして俺を……」
「う―ん。なんだか空港の展望台で見かけて、自分と同じ飛行機の離陸の瞬間が好きな人だとか…… 菜々の奴、昔から飛行機が大好きでね……」
「全然しらなかった……」
「菜々はああ見えて、男が苦手というか誤解されやすくて彼氏がまともに居た事ないんですよ…… それで、あなたにどう接していいか分からなくて、ずっと悩んでいたんです」
「ええっ。そんな風には見えないのに…… 美人で男を口説くなんて簡単なんじゃないかと…… あっ、すみません……」
「まあ、あの性格ですから一見そう見えてしまうんですよ。それに、あなたに彼女が出来た時は、それはもう落ち込んで朝まで大泣きして、呆れるくらいでしたよ」
「……」
遥人は何も言えなかった……
「菜々は、そんな子です。でも、決して好きだった人の彼女に嫉妬して嫌がらせをするような子では無いです。ましてや、仕事への支障を出す事は絶対無い! 菜々は、仕事に対しては真剣で妥協しない子ですから…… すみません、兄バカで……」
「申し訳ない…… 俺は、彼女を深く傷つけてしまった……」
睦は手にしていた缶コーヒーを一気に飲み、大きく息を着いた。
「いいえ。分かって頂ければいいんです。ただ、兄として言わせてください。菜々をそんな風にしか見ていなかったあなたには、正直幻滅しました。菜々も、やっとの思いであなたへの感情に蓋をしようとしています。これからも、あなたの部下として働くために…… ですから、もう中途半端な気持ちで菜々には近づかないで下さい。これ以上傷つけたく無いんです」
睦は冷静だが、厳しい口調だった。
「はい……」
遥人はただ下を向いて返事をする事しか出来なかった。
睦の兄としての想いは、遥人にもよく分る。
「でも、もしあなたが本気で菜々に惚れる事があるとしたら…… 菜々の一度閉じた心を開くのは大変でしょうね…… 菜々は、頑固だから……」
「そうでしょうね……」
遥人は菜々の姿を思い出し、ふっと笑った。
「まあ、工場長としては、発表会の成功を祈っています」
「ありがとうございます……」
遥人は、色々な意味を込めて深々と頭を下げた。