とりまきface
 菜々が昼食を済ませオフィスに戻る途中、女子トイレから聞こえる声に足が止まった。


「ねぇ、さっきのあれ何? 桜井さん、手作り弁当なんて広げちゃってさ…… しかも、黙って座って、凄いアピールよね…… 白石部長が声かけるのが当然な感じじゃない? いくら美人でも、あれだけお高くちゃ無理よね」


 菜々は女子社員の言葉に愕然とした。

 自分の印象の悪さに血の気が引いた。




 だが、そんな事ばかりも言ってはいられない。


 新しい商品企画の準備に追われ、遥人に声など掛ける余裕も知恵も無いまま過ぎてしまった。



 唯一、遥人の側に行くのは昼食の時だけで、結局はとりまきの中に居る。

 それしか方法が分からないのだ。

 お誘い上手な子達は、飲みに行こうだ、歓迎会だと盛り上がっているが、遥人は特に返事をすることも無く、表情ひとつ変えずに自分の食事をしている。

 いたって表情を変えない姿に、あの、空港で見た人は別人なのかと思ってしまう。

 だが、菜々はとにかくお高い印象を取り消そうと、必死で笑顔を見せた。

 とりまきたちの誘いに、にっこりと「行きましょうよ」などとも言ってみるのだが…… 
 益々それが、とりまきの一人と印象が悪くなっている事など気が付く訳がない……


 そんな毎日を繰り返していた。



「白石部長、美味しいイタリアンのお店があるんですけど行きませんか?」
 とりまきの一人が言った。

 勿論、遥人は曖昧な返事しかしない。

 菜々はなんとか、遥人と言葉を交わしたいと口を開いた。


「白石部長、空港の展望台いきませんか?」


 とりまき女子社員達が白い目で菜々を見た。


 菜々の目標の第一歩は、遥人ともう一度展望台で飛行機を見る事なのだ!


 遥人も、ちらっと菜々を見ただけで興味なさ気に目を逸らした。



 菜々の落ち込みは、かなり深いものだったが、それを表に出さないのが菜々の性格だ…… 

 オフィスの席に戻れば、山積みの仕事に集中しなければならない。


 しかも、新商品の発表会が来月に控えていて、あらゆる確認に飛び回っていた。



 落ち度があってはならない、ずっと大切に取り組んできた新作商品なのだから!
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