とりまきｆａｃｅ
　とりまきと言うのは、目的の男に彼女が出来ると的を彼女に向けるという、場合によっては見苦しい感情を向き出してしまう者もいる。

　それは、悲しい嫉妬であるのだが……


　菜々は、薄々亜美が嫌がらせを受けている事は感じていたのだが、とにかく仕事が忙しくて、気に止めてやれる暇が無かった。

　しいて言えば、あまり手際の良くない亜美の仕事を変わりに熟すくらいだ。



　菜々はとにかく、新製品が発表会までに間に合うか気がきでは無かったのだ。

　工場まで何度も足を運び確認に追われていた。


　社へ戻ると疲れがどっと出る。

　しかし、まだやらなければならい事が山積みだ……



　休憩室の自動販売機でブラックコーヒーを買い、口へ運ぶと少しだけ疲れが遠のく。


「桜井！」


　険しいドスの利いた声に振り向くと、遥人が立っていた。

　遥人の怖い表情になにか不手際があったのかと青ざめた。


「なんでしょうか？」


「亜美に、嫌がらせするのは辞めろ！　これは命令だ！　だから女っていうのは……」


　遥人は菜々が嫌がらせのリーダだと思っているのだと分かった。


　遥人は、菜々がとりまきの中から居なくなったどころか、菜々がどれほど仕事に追われているのかさえ気が付いていないのだ……

　あまりにも情けない……　



　女としての評価どころか、部下としても認めてもらえていないのだから……


　菜々の顔から表情が消えた……


　氷のように冷たい目を遥人に向けた。

　遥人の目が、少し引きつったような気がする。


「そんなに大切なら、部屋にでも閉じ込めておけばいいじゃないですか……　私は、部長にも亜美さんにも興味は無いわ」


　菜々は、冷たい表情のまま遥人に背中を向けた。


　その途端、菜々の目から涙が次から次へと溢れでた。

　失恋の涙なのか？　悔し涙なのか分からない……


　私はやっていないと素直に言えなかった。


　何を言っても、言い訳にしか思われないだろう。


　涙なんか見せたくない！
 
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