副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
莉乃は、扉が閉まったことを確認すると、大きく息を吐き、印刷したスケジュールを手にすると誠の部屋へと向かった。

「失礼します。こちら本日の予定です。よろしくお願いします」
莉乃は、いつも通り抑揚のない声で言うと誠に渡した。
誠はチラッと莉乃を見た後、スケジュールに目を落とすと、
「ありがとう。あと明日の会食の準備は?」

「大丈夫です。日本料理、吉瀬の個室を7時よりお取りしてます。先方の秘書の方にも極秘という事でお伝えしてあります」
莉乃は、淀みなく伝えると誠を見た。

莉乃はまっすぐに誠に見つめられ、ひやりとした汗が背中を伝うのがわかった。

「ありがとう。よろしく」
しかし、その後ため息とともに発せられた誠の言葉に、莉乃は急いで頭を下げると、
「失礼します」

とだけ莉乃は言い、踵を返し副社長の部屋を後にした。

(どうした?莉乃……)

莉乃から感じる拒絶の空気に誠は戸惑った。

(大丈夫、いつも通りだよね)

莉乃は、そう自分に言い聞かすように仕事に集中した。

「副社長、お先に失礼します。役員会の資料は後でメールするので、ご確認よろしくお願いします」

「家でやるのか?」
莉乃は誠のすこしいつもより低い声に、どのような意味が含まれるかわからず、
「はい、最終添付したい資料があるので」
莉乃はもっともらしいことを言うと俯いた。

残業をして遅くなるといろいろな不安が付きまとう。そしてそれ以上に誠に送ってもらう事も避けたかった。

誠は少し考えるような表情をした後、
「わかった」

「失礼します」
しずかに言われた故誠の言葉に、莉乃は躊躇することなく扉に手を掛けた。
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