副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
夜の帰宅帰りの社員の多い中、誠と莉乃は1Fのエントランスにいた。
会食に向かうため車を待っていた。
「もう来ると思います。申し訳ありません」
莉乃は1歩後ろから前を歩く誠に声を掛けた。
「大丈夫だ」
誠はエントランスのソファーに座ると、資料から目を逸らさず答えた。
そのソファーの後ろに立ち、莉乃はエントランスに目を向けていた。
『見て、副社長が座ってる!レアすぎ!』
『あー、雲の上の人だよね』
(雲の上の人……)
周りから女子社員たちの声が莉乃に聞こえた。
(近くに行き過ぎたよね。私なんかが近づいていい人じゃなかったんだ。一部上場企業の2代目。沢山の社員をまとめ上げるこの人を、どうして身近な人なんて思ってしまったんだろ)
莉乃は小さくため息をついて、今の状況を思い出して気を引き締めた。
「水川さん、溜息なんかついてどうしたの?」
誠は副社長の笑みを不意に莉乃にした。
『副社長が笑った!』
『秘書に笑いかけたの?やさしい!』
エントランスがざわめくと同時に、ちょうどそこへ車が入ってきた。
「副社長、お待たせしました」
莉乃は、表情を変えずいった言葉に、誠は軽く息を吐くと、無言で立ち上がった。
『あー、いっちゃう、あの秘書いいな』
『でも、もう少しきれいじゃないと、副社長の恥じゃない?うちの会社の』
(恥……)
莉乃はまた自分のしていることが、誠の足を引っ張っている様な気分になった。