副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
急いでエントランスから外に出ると、警備員と残っていた社員が集まっているのが見えた。

その向こうに、莉乃の首元にナイフを突きつけている男が見えた。

「副社長!」
一斉に向けられた視線など全く気付かず、誠は莉乃の姿に一瞬にして血の気が引くのが自分でも分かった。

「警察は?」
なんとか発した言葉が、社員相手だったお陰かきちんと言葉になったことが救いだった。
「呼びました!もう来ると思います」

「お前ら!どけ!おれは、莉乃に用があるんだ!莉乃は俺と一緒に行くんだよ」
総一郎の目は血走り、莉乃の目からは涙が流れ、青白い顔があった。

すでに莉乃の目は誠を捉えることはなく、過去のトラウマからか、目の焦点があってないような状態だった。

(莉乃……莉乃を助けるのは俺だ)

すぐにでも総一郎に近づき、殴ってでも莉乃を取り戻したい気持ちを誠は必死に抑えると、誠はゆっくりと総一郎の前に立った。

「彼女を離すんだ」


「なんだお前は!莉乃は俺のだ。車を用意しろ!」
更に莉乃の首をギュッと腕で締めようとする総一郎の姿に、誠の足が一歩前へと出た。
そんなとき、後ろからきた警察の存在に気づき、誠はハッとして足を止めた。

「お前のなのか?」
冷静にそう言葉をかけると、総一郎なヘラヘラとした笑顔を向けた。
「そうだよ。本当は可愛いんだよ。もっと。どうしてこんな格好をさせられてるの?」
そういって、ぺろりと莉乃の頬を総一郎は舐め上げた。

「や……めて」
ガタガタと震えながら言葉を発した莉乃の声と、周りにいた社員の悲鳴にも近い声がその場を包み込んだ。

(落ち着け……自分……)


誠はなんとか、自分に総一郎の注意を引き寄せたくて、あえて同調するように総一郎に笑顔を向けた。

「いつから君の物なんだい?」
「もう、ずっと前から、俺の物だ。俺の莉乃……」

「綺麗な彼女だな」
誠は神経を逆なでしないように言うと、少しだけ総一郎に気づかれないように、莉乃に近づいた。

「だろ。今はこんな格好してるけど……かわいそうに。早く昔の可愛い莉乃に戻ろうね」
総一郎は、莉乃の頭を撫でると壊れたように笑い、ナイフを一瞬莉乃の喉元から離した。

その一瞬を見逃さず、後ろから刑事が総一郎が拘束された。

「なんだよ!!お前ら!止めろ!莉乃!莉乃!」
狂ったように叫び出した、総一郎は数人の警察官に取り押さえられるように、引きずられていった。
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