副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
夕方までなんとか平静を保ち、秘書課によると社長秘書の千堂大輔に声を掛けられた。

「水川さん、今日この後予定ある?今日副社長は出張からまだ戻ってないよね?」
困ったような顔の千堂は言った。

「どうされたんですか?」
仕事も早く社長からも一目おかれている千堂が困った顔をするのを莉乃は初めて目にした。
いつでも冷静沈着で、言葉を荒げるところも、慌てることもない千堂は誠とは違う魅力を持っている。
その整った優しい顔が困っているのをみて、莉乃も表情を曇らせた。

「今日の社長の接待なんだけど、営業部の女性社員もも来るはずだったんですが、今緊張からか調子が悪くなってしまったんです。もう予約まで時間もなしい外せない接待で……。あまり仕事内容のわからない人にも頼めないんです。社長に相談したら水川さんにお願いできないかとの事なんだ。こんなことを君に言うのは間違っているのはわかってるんですが。男だの女だの言う先方が問題なのも百も承知です。それをふまえてお願いできませんか?」

(どこかの女好きの社長か……)

今の精神状態で、お酒の席でエロ社長の相手をすることは莉乃にとって本意ではないし、本当だったらすぐに家に帰りたかった。
しかし社長自らの接待の重要性を秘書課にいる莉乃はよくわかっていたし、誠にも関わってくることだよ言う事も解っていた。

「わかりました」
莉乃は小さく息を吐くと、千堂を見た。

「ありがとう。副社長には俺から話すから」

「お願いします」
そういうと千堂は受話器を手に取った。

莉乃は、内心ほっとする自分にも気づいた。
もしも早く家に帰って、誠が帰りによるという事があれば、どういう顔をして、何を聞いていいか気持ちの整理がついていなかった。

このまま社長の接待という事で会社を抜ければ、今日は会わなくて済むはずだ。

(このまま逃げていても仕方ないけど、少し心の整理をする時間が欲しい)

莉乃はまた考えて涙がでそうになるのを、なんとか抑えると千堂の電話が終わるのを待った。

「水川さんお待たせ。副社長にOKもらったからよろしくお願いします。あまりいい返事ではなかったですがなんとか了承いただきました。大切な秘書をお酒の場に出すのは嫌なんですね。これ、今日の接待相手の資料です」
少し苦笑した千堂に、莉乃も誠がどう答えたのか気になったが、曖昧な笑みを浮かべて資料を受け取った。

「すぐに目を通します」
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