副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
千堂は大きく息を吐くと、莉乃を見た。
「水川さん、本当に今日はありがとうございました。助かりました」
「いえ、少しでもお役に立てたならよかったです」
綺麗な微笑みを湛えた千堂に、莉乃も笑みを見せた。

チラリと腕時計に目を向けると9時半を少し回っていた。

(まだ、電車あるし大丈夫だな)

「お疲れさまでした。私ここから電車なので」
少し頭を下げると、莉乃は千堂を見た。
「送ります。こんなとこから一人で返せません。私が頼んだので」
秘書室長の顔をした千堂の言葉に、
「ありがとうございます。お気持ちだけで大丈夫です。まだ早いですし」
そう答えると、駅へ向かおうとした。

「ちょっと待って!」
いつも敬語を使う千堂の、そうではない言葉に莉乃は違和感を感じて足を止めた。

「ほとんどご飯食べてなかったんじゃない?」
ネクタイを緩め、きちっと固められた髪を手で少しくずした千堂を、莉乃は驚いて見つめた。

「はい……」

「なに?」
見たことないような少し口角を上げた千堂の問いに、莉乃はぼんやりと口を開いた。
「あの……雰囲気が……」

「そう?まあいいじゃん。うん、じゃあ今日のお礼。何か食べよ?」
千堂は莉乃に有無を言わさず、莉乃の腕を掴むと目の前にあったバルに入った。

「え……え!……千堂さん!!」

「少しだけ、少しだけ。お腹空いたままじゃ眠れないでしょ?」
いたずらっ子のように笑った千堂に、莉乃もなぜか笑えてきてクスリと笑った。

「あっ、笑った」
千堂がニコリとわらって放った言葉に、莉乃は聞き返した。
「え?」
「水川さん、今日元気なかったから。何かあったのかなって思ってたから」


(千堂さんにまでわかるなんて……そんなに顔に出てた?)

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