副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
帰りは香織が助手席に乗ったため、莉乃は誠の後に続いて後部座席に腰を下ろすと一息ついた。

時間は22時25分。

「今日はよく眠れそうだよ」
莉乃は誠を見ると少しぼんやりとした瞳を向けた。

「……というか、莉乃、眠たいんだろ?」

「そんなこと……ないよ。大丈夫」
目を覚まそうと軽く首を振ると、莉乃は目を見開いた。

「莉乃、いいから寝て行けよ」
「ダメ!そんなの!」


「いいよ、莉乃ちゃん、遠慮しないで寝ていきな。着いたらちゃんと起こすから。香織ちゃんもね」
二人のそんな会話を聞いて、弘樹は笑いながら前から莉乃に声を掛けた。


「でも……そんな」
そうは言ったものの、静かな室内と車の揺れが心地よく、カクっと身体が落ちる感覚で莉乃は慌てて体制を立て直そうとした。
「いいから。こっち」
誠は静かに言うと、莉乃の頭をそっと自分の肩に引き寄せた。

「ごめんなさい……ありがとう」
なんとかそれだけを言うと、莉乃は瞼が落ち視界が暗くなった。

「誠、莉乃ちゃん寝た?」
「ああ、香織ちゃんは?」
「こっちも寝てる。はしゃいでたからな」
バックミラー越しに目が合うと、クスリと笑いあった。

「なあ誠……莉乃ちゃんてさ、なんかあるんだろ?会社でそんな風にしてる理由」

誠もそれは今日一日で思った。

たぶん、この莉乃が本当の莉乃なんだろう。
会社での莉乃に、何度か違和感を感じたのはこの為だったと確信した。

「何なんだろうな」
誠は呟くように答えて、すぐそばで静かに眠る莉乃の寝顔を盗み見た。
「でも、今日は誠も楽しそうでよかったよ」
「何言ってるんだよ」
平静を装い弘樹に応えたが、誠自身初めて感じる感覚に戸惑っていた。

(確かに楽しかった。この俺が……)



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