副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
莉乃は優しく回された温かい腕の温もりに、今まで一人で耐えてきた何かが崩れるような気がして、頬に涙がつたった。
寄り掛かっていいと言ってくれる人がいる。頼っていいと言ってくれる人がいる。
その事実が嬉しかった。

(それがどういう関係でもね……)

莉乃の瞳から、また涙が溢れた。
今まで我慢してきた物が一気に流れ出るように、莉乃は涙を止められなかった。

誠はその涙を優しく自分の指で受け止めると、無言で莉乃を隠すように自分の腕の中に押し込めた。

莉乃は驚いて体を固くしたが、守られているそう思える誠の腕は安心できるものだった。

しばらく涙を流した後、「もう大丈夫だから……」呟くように言った莉乃に、

「もう少しだけ」

誠はさらに抱きしめていた腕に力を込めた。

ぎゅっと強く抱きしめられ、莉乃は自分自身を実感するような感覚に陥り、胸がぎゅっと音を立てたような気がした。
そして心の奥底にあった不安や、恐怖心が落ち着いていくのがわかった。
抱きしめられている腕の中で、硬くなっていた体の緊張がとれ、誠の胸に体を少し預けると大きく息を吐いた。

そんな莉乃を誠は抱きしめながら、葛藤していた。

(俺でいいのか?俺みたいな男が莉乃を守っても……でも……)

そんな気持ちが渦巻いたが、莉乃の髪を優しく撫でると、
「俺を頼って……莉乃」

『莉乃に関わらない』そんなちっぽけな決心など一瞬で吹き飛ぶほど、誠は莉乃を守りたかった。不安を拭い去りたかった。

そして、莉乃をこんな風にした見たこともない男に憤りを感じていた。
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