仔猫 VS 僕
1


僕のカノジョは、気紛れを除いて仔猫顔負けだ。
人懐っこく甘え上手で、周りをすぐに魅了する。
天真爛漫な性格は、関わらなくても端から見ていてわかるほどだった。
僕が恋に落ちるのは早かった。
一目惚れかもしれない。
それから猛アプローチの末、僕はようやくカノジョーー秋永紗綾(あきながさあや)と付き合うこととなった。


「はい、柚ちゃん。あーんして?」


もちろん仔猫に羞恥心がないように、カノジョにもそれはなかった。
ここは食堂。もはや、僕たちは名物の見世物となっていた。
しかしカノジョは、そんなこと構いやしない。


「だから……紗綾さん。それはしないって言ったでしょう」


熱くなる顔は自覚すると、ますます逆上せてゆくばかり。
そんな僕の反応は結局のところ、カノジョを満足させるものでしかなかった。


「柚ちゃん、顔真っ赤」


満たされたカノジョは、たった一度だけのワガママを残して、スプーンに載ったオムライスを食べてしまったのだった。
僕は公衆の面前でカノジョに欲情を煽られ、呆気なくそれを奪われてしまう。
本当は食べたくてたまらない、カノジョのオムライス。
僕はまたお預けをくらっていた。


「柚原たち、今日もまたやってんなあ。フー、アツアツ!」


見世物に続き、恒例の冷やかし。
僕の連れたちはデレデレしながら、紗綾さんに挨拶をしていた。
食堂が混雑していたせいもあり、冷やかしを終えた友人たちは僕たちの隣に席を陣取った。
もともと人前でイチャイチャするつもりなど毛頭なかった僕は、彼らを歓迎した。
しかし紗綾さんは、おもむろに立ち上がった。



「じゃあ私、そろそろ行くね」


「え? 俺たちジャマなら、席変わりますって」


「紗綾さん、もう行っちゃうなんて連れないですよ」


何を目当てにしてるんだ、と内心毒づきながらも、各々で紗綾さんを引き留める友人たち。
カノジョはそれをひらりとかわした。


「ほら私、ゴウちゃん(担任)にお昼休み、呼ばれているから。みんな、またね」


完璧な笑顔とーー僅かな憂いを置いて紗綾さんは可憐に立ち去った。
最後のあれは、僕にしかわからない。
突如いなくなった向かい席に、途端に物恋しさが込み上げた。


(紗綾さんはやっぱり、ずるい)


適度にかわいいワガママで僕を煽ったかと思いきや、きちんと引き際を弁えている。
ちょうど僕が、寂しいとまた欲しくなるタイミングを狙って。
そのくせ、妙に聞き分けがいいんだ。
さっきだって、担任の呼び出しは放課後でもいいと自分で言っていたくせに。


年上だからなのか?
だから大人のように、笑顔で嘘を振る舞えるのか?


去り際に寂しそうな顔をするなんて、本当にずるいと思う。
僕を煽りながら、自分の気持ちを抑えてからかうなんて、そんなの卑怯だ。


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