雨の日、綺麗に咲く花は
『ハナ』
「……っ、」
溜息をつき再び中へ入ろうとした私の耳に、夫の声が聞こえた。
昨日もそうだが、夫が死んでからこうした幻聴はよくあった。
ありえないことだって分かっている。
夫は三年も前に死んだのだから。
けれど、…分かっていてもつい振り返ってしまうのだ。
「……いる訳ないのに」
そうして期待しては落胆の繰り返しを、今まで何度繰り返したか分からない。
自分でもいい加減にしろって思う。
そろそろ吹っ切りなよって。
だけどそれが出来るならもうとっくにしてる。
こんなに胸が張り裂けそうな思いも、枕を涙で濡らすことも、しなくていいならしたくない。
私だって、もっと楽に生きたいよ。
鐘の音が鳴り終わると同時に、今度こそ振り返らずに中へ入った。