雨の日、綺麗に咲く花は


「藤井さん、ちょっといい?」

「はい…?」


居酒屋に着くなり珍しく店長に呼び出された。

どうも様子のおかしい店長に嫌な予感を覚えつつも近づく。

年の割に見た目の若い店長は、仕事が出来る上に優しいと評判で、従業員の皆から慕われていた。そんな店長が眉間に皺を寄せているのだからよっぽどのことだろう。


「藤井さん、言いづらいんだけど店に変な噂が広がっていて…」

「…はい」

「藤井さんの旦那さんが電車で…、」


そこまで言って黙る店長に、その先の言葉は聞かなくても分かった。

これが初めてじゃない。
こんなのは今までに何回もあったことだ。


大丈夫、大丈夫。

私は大丈夫。ちゃんと今息してる。


「お世話になりました」

「えっ?」

「お騒がせしてすみませんでした」

「藤井さん、僕はそんなつもりじゃなくて」


今直ぐこの場から立ち去りたい一心で、私は頭を下げた。




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