雨の日、綺麗に咲く花は
あの日のことを思い出すと、今でも震えが止まらなくなる。
どんなに否定しようとも、どんなに現実を受け入れられなくても、彼が死んだという事実が変わることはなかった。
あの時から全てが変わり、私は今でももがき続けている。
まるで迷宮に迷い込んでしまったかのようで、もしかしたら一生そこから抜け出すことは出来ないのかもしれない。
「……はぁ」
思わず漏れた溜息は、白い息と共に消え去っていく。
すぐに居酒屋を辞めたかったけれど、急には迷惑だと思ったのでせめて新しい人が来るまでは我慢しようとした。
けれどあの後、控え室に戻った私を呼び戻した店長に今月分の給料を渡された瞬間、もう来なくても良いのだと悟った。
封筒の中に働いた額よりも上乗せされた額と、”申し訳ない”と丁寧に書かれたメモが入っていたのには驚いたが、
店長が従業員の皆から慕われる理由が改めて分かった。
あの時の顔はきっと忘れないだろう。
────同情に満ちあふれた顔。
店長の人の良さは分かったけれど、その分虚しさが押し寄せた。