僕と家族と逃げ込み家
栗林母の声には、幸助への怒りは全く含まれていない。

「いえ、こちらこそ、すみません。あのぉ、大丈夫ですから。こういうの慣れていますから」

僕の言葉に栗原母は「えっ?」と顔を上げる。

「こいつら腕白でして、しょっちゅう喧嘩するんですよ」

カラカラと笑う僕の頭に、叔父が拳骨を落とす。

「馬鹿か! 栗林さんがビックリしてるだろう。すみません。言葉が足らなくて。いえねぇ、喧嘩って言っても、じゃれているだけですから」

はぁ……と栗林母が毒気を抜かれたような気の抜けた返事をする。

「――ということで、二胡ちゃんはこの『逃げ込み家』でしっかりお預かりします。ご安心を」

またしても僕に断りもなく、叔父はそう言い切ってドンと胸を叩き太鼓判を押す。

だからぁ、この塾は僕が塾長なんだってば!
でも、僕もそう思っていたから素直に同意する。

「栗林さん、こいつら喧嘩もしますが、本当にいい子たちなんです。大丈夫です!」

栗原母は一瞬、躊躇したものの、思い直したのか小さく頷き、「よろしくお願いします」と頭を下げると心配そうにしながらも一足先に帰った。
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