僕と家族と逃げ込み家
「なぁなぁ」と幸助が耳打ちをする。
「何だ?」と訊きながらも目はノートに置いたままだ。

「ここ、間違ってるぞ」

得意の算数を間違うとはさっきのダメージがまだ残っているのだろうか?

「あいつ、何で口利かないんだ?」

そうでもないようだ。

子どもって本当に無邪気でストレートだ。それがときに刃となって人を傷付ける。チラリと二胡に視線を向け、聞かれいなかったようだとホッとする。

美山はどうやら二胡と上手くやっているようだ。
二胡は大人しく漢字の書き取りをしている。

「あとでちゃんと説明する。あ・と・でなっ」

ノートを衝立にし囁くと、ふーんと幸助は返事をして「絶対だぞ」と澄んだ瞳で僕の瞳を覗き込む。

「了解」とノートを返し、今のところをやり直させる。

 ◇◇◇ ◇◇◇

二時間が経ち、栗林母が迎えに来た。
今日は初日なので、早めに来てもらうよう頼んでおいたのだ。

「さて、お前たちもそろそろ夕飯にするか?」

今日はメンバー全員、ここで夕食を食べると連絡を貰っていた。
各々、叔父に注文をして、いつものようにテーブルにつくと、約束通り食事をしながら二胡の話しを始めた。

小学生だからと僕はこいつらに曖昧な言い方をしない。子供は大人が思っている以上に賢い。だから、嘘や誤魔化しもすぐに見破ってしまう。これは母の受け売りだ。

「そっかぁ、二胡ちゃん事故に遭ったんだ……苛められたんだ」

健太は「……可哀想」と瞳をウルウルさせる。本当、こいつは素直だ。
幸助を見ると、無言で大好きなハンバーグを口に運んでいる。

亮が「僕、仲良くする」とポツリ呟く。
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