僕と家族と逃げ込み家
やさぐれ感漂う母の視線がテーブルの恋愛小説に向く。

なるほど、今の発言はその小説に感化されたものだな。
きっと、内容は今の発言にあった政略結婚、そんなたぐいの話だろう。

「たぶんそうなるでしょう……そして、仕事は辞めなくてはならなくなるでしょう」

「えぇぇぇ!」と母が悲鳴を上げる。

「それはダメ! 無理! 生きていけない!」

僕も激しく同意だ。
母の面倒を一人で見ることなどできない。僕に死んでくれと言っているようなものだ。

母と僕は縋り付くようにトヨ子ちゃんを見る。

「とっとにかく、そもそもどうして急にそういう話になったんだよ!」

落ち着こうと思うのだが、どうにも落ち着けない。
トヨ子ちゃんがいなくなるなんて……悪夢だ!

「二・三年前から話は持ち上がっていました。でも、これまでなんだかんだ言っては逃げおおせていたのですが……」

「今、二十八歳だったわね。昔で言うところの適齢期を随分超えるわよね。まぁ、昔気質のお爺様としては心配よね」

母の言葉に、いったい誰の味方なんだと疑問が湧く。

「でも、毎度毎度、爺様の持ってくるお相手が、本当もう最悪で! 家柄はそりゃあ、申し分ないですよ。でも、理想から程遠い人ばかりで……」

あっ、壊れた。
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