僕と家族と逃げ込み家
「次は、清水寺でーす」

レポーターが両手を広げて目を輝かせる。
……ん、再放送? 今、そこ修復中だったような……。

「見て下さい! これがかの有名な『清水の舞台から飛び降りる』の清水寺本堂舞台です」

深い緑と青い空のコントラストが美しい。

「何と! 江戸時代、本当に飛び降りた人が二百人以上もいたそうですよ」

なんと無謀なことをと思っていると……。
「無謀ですよねぇ」と同意する声がテレビから聞こえる。

「それもこれも願望成就のためだったそうです。いつの世も神頼みは変わりませんね」

いや神頼みというより、命がけ?

でも、命あっての祈りだろと思わず突っ込み、昔の人はムチャするなぁ、と思っていると、「そうよ!」と母が突然声を上げる。

その声に、ビックリして思わずヒッと腰を浮かすと、叔父も驚いたのだろう、ダイニングからガチャンと大きな音がした。どうやら洗ったばかりのボールを流しに落としたらしい。

「もう! ビックリさせるなよ……ほら、できたぞ」

しかし、料理は無事なようだ。視線をダイニングテーブルに向けると、黄色い卵に真っ赤なケチャップの乗ったオムライスが白い湯気を上げて鎮座していた。

叔父のオムライスは芸術だと思う。こればっかりはトヨ子ちゃんも負ける。

僕はダイニングに飛んで行きオムライスを前に座る。
母も「よいしょ」とこちらに来る。

「で、何がそうよ! だったんだ?」

三人同時に、「いただきます」をして食べ始めると同時に叔父が訊く。

「清水の舞台から飛び降りるよ!」

――意味不明だ。
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