僕と家族と逃げ込み家
「で、どこで小笠原明穂が活躍するんですか?」

憮然としたまま叔父が訊ねる。
そう言えば、そうだ。

「彼女、特殊メイクさんじゃなかったですか?」

まさか、純愛物語にゾンビなんて出てこないだろうと思うが……この監督なら有り得ないこともないかもしれない、とちょっと思う。

「ああ、それですかぁ、特殊メイクと言ってもいろいろありまして。今回は、百キロの体重から徐々に減っていく、全身フルの特殊メイクをお願いしているんですよ」

そう言えば、前にハリウッド映画でそんなのを見たことがある。
実際は物凄い美人なのに、別人のようなおデブ姿に変身した女優。あれは同一人物に思えなかった。

「へぇ、そりゃ、楽しみだ。で、女優さんは?」

商店街会長の言葉に監督はニヤリと笑い、「それはまだ秘密です」と言う。物凄く気になる。

で、そんなこんなの話にすっかり引き込まれ、忘れていた。亮のことを相談するのを……気付いたのは恵の勉強を見ていた時だ。

アチャーと思ったいたら……。
「で、春太も映画に出るって?」と恵が言う。

本当、こいつは地獄耳だ。

「監督がそんなこと言ってたけど、確かじゃないから分からない」

ふーんと恵は口を尖らせ、面白くなさそうに言う。
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