僕と家族と逃げ込み家
「厭だなぁ」
「何が?」
「春太が有名人になったら」
「あのなぁ、エキストラが有名人になるか!」

本当にコイツは馬鹿だ! でも、何で厭なんだろう?

「なるかもしれないじゃない!」

フンと鼻を鳴らして、また切れる。
メザシだけではダメなのか? 明日、ヨーグルトとチーズを買ってこよう。

「それにしても、凄いねっ、亮君ママ」

こいつの話はコロコロ変わる。

「アメリカかぁ。ちょっと憧れちゃう」

恵は天井を見上げながら何やら妄想しているようだ。視点が明後日の方を向いている。

「夢を叶えたんだね、亮君ママは……」

でも、我が子は犠牲になった。

「夢かぁ、お前の夢って何だ?」

何気なしに恵に訊ねながら、ハタと思う。
僕の夢は何だった?

父が亡くなった時は、お金を稼いで母の面倒をみると心に誓ったが……。
あれは別に夢でも何でもなかった。

現状、僕がお金を稼がなくても母はもう十分老後を過ごせるだけのお金は稼いでいる。

「私の夢は……お嫁さんになること」

そんなことを考えていると、恵が突拍子もないことを言った。
はぁぁぁと目を剥き、「お前が?」と言った途端、後頭部を叩かれる。
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