僕と家族と逃げ込み家
グッドタイミング!

「疲れたぁー!」

ロングの黒髪がサラッと揺れ、トヨ子ちゃんの頬にかかる。それをトヨ子ちゃんが片手でかき上げる。フワッと鼻先を掠めるフローラルの香り。

――今回は甘めの男かぁ。
トヨ子ちゃんは、なぜだか好きになる男に合わせてシャンプーの香りを変える。

しかし、年齢の違いだろうか?
同じフローラル系のシャンプーを使っているのに母とはどこか違う。

トヨ子ちゃんからはそれに加えてピンクの香りがする。
ドキドキを覚えながらトヨ子ちゃんの横顔を見る。

南国風の彫の深い顔。本当、怖いくらいに美人だ。しかし、残念ならが僕のタイプではない。本人に言ったら「私もよ!」とド突かれそうだから絶対に言わないが。

「すみません。駅前のドリーに寄ってきたので」

そう言いながら、トヨ子ちゃんが花柄のケーキボックスを差し出す。

「ドリー!」

また合唱したわけではないが、母と僕の声がピタリと重なる。
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