僕と家族と逃げ込み家
叔父は父が亡くなったとき、日本にいなかった。日本の反対側、ブラジルにいたらしい。

不確かな言い方は、叔父の前職がフードライターで世界中を放浪していたからだ。

日本に定住したのは二年前。

表向きは僕と母を心配してと言っているが、本当はトヨ子ちゃんに一目惚れしたからだ。

叔父は母からテナント募集の話を聞くと、早々名乗りを上げ『金は十分に出す。カフェをやらしてくれ』と頼んだ。

本気でトヨ子ちゃんを落とす気だと分かったとき、しみじみチャレンジャーだと思った。

だが、当時の母は叔父を全く信用していなかった。素行に問題ありだったからだ。

『突然フラフラとどこにも行かない? 絶対に?』

母は疑いの眼で叔父を見ながらトヨ子ちゃんに『どうする?』と相談した。

『やーめたって、急に店を辞められても困るんですけど』

母のマネージメントもしているトヨ子ちゃんは何事においてもシビアだ。
しかし、実弟よりトヨ子ちゃんを信頼する母って……。

『大丈夫。ここで骨を埋める』と殊勝な顔で言う叔父に、『じゃあ、本気を見せて』と母から出された課題は料理を作ることだった。

その時、叔父が作ったのは、パエリア、ポーク&ビーンズ、タコス、ピロシキ、小籠包子、サテ・アヤム、と何を基準に作ったんだか分からない料理たちだった。

だが、流石はフードライター。世界を旅して食べてきただけあった。
トヨ子ちゃんと競えるほど美味しかった。

母もその料理には納得したらしい。叔父の出店を許した。でも、トヨ子ちゃんの助言で予定通りに資金はしっかり出させたらしい。
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