僕と家族と逃げ込み家

――思い出したくもないあの屈辱。
そう！　春休みを前に発覚したのだ。

『えっ！　お前まだ？　それはそれは』
（それはに続く言葉は何だ！）

『嘘だろ？　頭いいのにな』
（頭の良し悪しが関係あるのか！）

『ご愁傷様。俺、小三の時だったかなっ』
（早過ぎだろう、早熟ヤロー！）

散々、馬鹿にされたあの日。
クラスの男子（十八人）でキスの経験がないのは、自分を含めて三人だけと判明したのだ。

あいつら、バカにしやがって！
未だに怒りが湧き上がる。

絶対に死ぬもんか！　ファーストキスも済まさないでこの世を去るなんて……プライドが許さない！

この思いは怖いぐらい性……もとい！　生への未練を増長させた。

泳ぐように目の前の湯呑に手を伸ばす。そして、最後の力を振り絞りグビッと一口飲む。

――だが、あれっ？　なんで……。
お茶までもが大福の手前で止まってしまった。

お、おい、嘘だろ！
ますます息苦しくなる。悪夢だ！

やけくそでもう一口飲んでみるが、意識が遠ざかっていく。
あぁ、あれが三途の川……か？

目前にサラサラと流れる美しい川が現われた。
それをボンヤリ見ていると……何で？

なぜか巨大ショベルカーが目の前を通り過ぎていく。

しかし、その『なぜ』はすぐに解明される。
川を堰き止めている大岩に向かっているのだ。

果敢にその岩に立ち向かい、ショベルカーは微動だにしなかった岩を少しずつ動かす。そして、とうとう押しのけた！