僕と家族と逃げ込み家
亮はどことなく世の中を達観しているところがある。
小学五年生にしてだ。

だからだろう、亮の一挙手一投足に僕は恥じ入ることが多い。
それだけ僕が大人気ないのかもしれない。

よし! もう、清水の舞台から飛び降りる覚悟で恵に会いに行こう!
そんなことを思いながら、旅行に行く塾生のために今日は塾を早仕舞いする。

「お疲れ」
「今日はお前か」

笹口と美山も時々『逃げ込み家』にバイトに入る。
どうやら、今日は笹口の番のようだ。

僕は笹口と交代すると、その足で1108号室の逢沢宅に向かう。
そして、言うことも考えず、ドアホンに指を添えると、えいっと思い切って押した。

ドア奥からピンポーンと軽快な音が聞こえる。
インターフォン越しに、「はぁーい」と明るい声が返事をする。

「僕だけど」
「僕って、どちらの僕様?」

クソッ、カメラで僕だと確認しているはずなのに。白々しい。
しかし、ここで怒ったら元も子もない。グッと我慢だ。

「……恵、ごめん」

だが……しかし、どうしてカメラに向かって頭を下げなきゃいけないんだ。ムカつく!

「あらぁ、その顔は何? 反省が足りないの……かしら?」

きっと、今頃、カメラの向こうで、あいつ、高笑いしてるぞ。

「まっ、とにかくどうぞ」

カチャンと鍵の開く音がしてパタパタ廊下を走る音がする。そして、勢い良くドアが開く。
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