僕と家族と逃げ込み家
第3話 天使の微笑み

§ 笑いを忘れた天使

鬱陶しい梅雨が終わったと思ったら、いきなりの暑さ。いっそ裸でと思い、ダイニングテーブルに陣取る母とトヨ子ちゃんに気付く。

いかん! また前みたいに我が身をエロ本に書かれたら堪らない!

「トヨ子ちゃん、エアコンの温度下げてもいい?」
「何を仰っているのですか。二十七度。適温です」

トヨ子ちゃんは締まり屋だ。だが、本人曰く「地球に優しいエコな人」だそうだ。

真夏でも二十六度以下にしてくれない。
血気盛んな青年には……地獄だ。

仕方がないと即座に諦め、こういう時は叔父の店、カフェ『逃げ込み家』に避難するのが一番だと立ち上がる。

そして、早々に「家出します」と言うと、母とトヨ子ちゃんが「いってらっしゃーい」とにこやかに手を振り、僕を送り出す。

二人がなぜ機嫌がいいのか知っている。
冷凍庫にあるアイスだ。

お取り寄せでやっと手に入れた、期間限定個数限定の超レア五十鈴屋の『フルーツたっぷり南極かき氷』を、僕がいない間に食べる気だ。

冷凍庫に鎮座するそれは二個のみ。
本当、大人気ない二人だ。
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