僕と家族と逃げ込み家
「あっちは僕に任せて」

軽くウインクすると美山は観葉植物に囲まれたデッドスペースに向かう。途端に賑やかな声が聞こえてくる。

「健太、ズルいぞ! 亮が先だ。で、次は俺だ!」

また健太と幸助の喧嘩が始まった。本当、飽きない二人だ。

「なぁ、アイツ等の中にサイレント姫が混じったらどうなるかなぁ?」

笹口、お前、口角が上がっているぞ。

こいつのこれは悪気があってじゃない。こう見えてこいつは理系脳で科学が大好物。人と人の化学変化というものを密かに研究しているかなりオタクな変人なのだ。

チリリーンとドアベルが鳴り、親子らしい一組のお客が入って来た。
「いらっしゃいませ」と叔父の声が店内に響く。

「あっ、すみません。こちらで塾をされていると……」

瞳だけで辺りを見回し、女性が困惑気味に訊ねる。

「ああ、岡崎歯科医院の」

叔父の言葉に女性は少し安堵したようだ。大きく頷く。

ふーん、あの人が……。
そう言えば、女性の位置からデッドスペースのあいつらは見えない。戸惑うはずだ。

僕は笹口を伴い、女性の前に立ちつと丁寧にお辞儀をする。

「お待ちしてました」

そして、自己紹介を始める。
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