nocturne -君を想う夜-
nocturne -君を想う夜-
電車から降りたら、風が冷たかった。
改札へ向かうまばらな人の波に乗り、発車のベルを置き去りにして私もホームを後にする。
階段を上ると小さな改札口を抜けて、疲れ顔の人々は左右へと散り散りに帰っていく。
私も多分、同じような顔をしているんだろう。
そこまで遅くなったわけではないけれど、久々の残業は思ったより体にくる。
「……と、」
“歳かな”。
音になりそうで、慌てて飲み込んだ。
独り暮らしが長くなると外でも独り言が多くなりがちで困る。
やはり、歳なのかもしれない。
改札を抜けて歩き慣れた道を歩く。
小さなこの駅の近くは何もなくって、人はちらちら居ても明かりは乏しい。
けれどすぐに大通りがあるので、そこまで歩けば都心ほどではないにしろ街も明るくなる。
大通りを横切る横断歩道は遠回りになるため、脇にある歩道橋を使う。
これもいつものこと。
階段を上りきると足に疲労感を覚える。
10代や20代の頃の体力とは違うことを否定できない。
苦笑して、それでもなんでもない風に歩き出す。
目の前からは可愛いカップルが歩いてくる。
高校生だか、大学生だかそれくらいだろう。
きゃっきゃとはしゃぎ合い、手を繋ぎ、笑顔は幸せそうだ。
すれ違い様にはしゃいだ拍子だろうか、彼女が軽くよろけて肩がぶつかった。
「あ、すみません!」
「いえ」
短い会話をすると、彼氏も私にペコリと会釈する。
しっかりとしたカップルで、好感が持てる。
私も会釈を返して、そのまま進む。
「なにやってんだよ」
「ごめんごめん」
「気を付けろよ?」
後ろで聞こえた会話が遠ざかって、私は立ち止まった。
振り返ると仲睦まじい様子で二人は小さくなっていく。
見ず知らずのカップルの後ろ姿を見届けて、私はため息をこぼした。
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