nocturne -君を想う夜-

道路には光が溢れてある。
流れる光が川のようだって言うのは陳腐な物言いかも知れないけれど、言い得て妙だ。
近づいては遠ざかり、次から次へと光が流れになって続いていく。
家の明かりと同じく、流れていく光のその分だけ人々の生活があるんだろうか。
光るものさえ持っていない自分がなんだかちっぽけで笑う。
そんな自分を励ますようにそっと呟く。

「大丈夫。……だいじょうぶ」

近くで見ているから一つ一つが眩しく見えるだけ。
高台の方から見たら、きっとこれも綺麗なパノラマ夜景の一部なんだろう。
あのカップルも、この光の流れもみんな違うし、みんな同じ。
こんな風に切ないのは私一人じゃないよ、きっとね。

そっと見上げた空は、濃い闇の色。
月はまだ低く、ぐんと位置を高くしその輝きで存在感を高めるのはもう少し先のことだろう。
下界の光がギラギラと街を明るくしているからか、この闇に浮かぶ星は少く、そして、弱くて儚い。
この街の空は息苦しいな、心で呟く。
ひゅ、ときた夜風に身を震わせ、ストールに顔を埋めた。
いつまでもこんなところで感傷に浸っててはいけない、私はようやく止めていた足を動かした。



油っぽいものを避けるようになった。
昔は断然お肉派だったけど、今ではすっかり魚の美味しさがわかるようになった。
お肌の曲がり角、なんてものを実感するようになってからは、とうに何年たっただろうか。
可愛いね、なんて言ってもらったのは―――もう、思い出せないほど、昔のことだ。


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