私のご主人様Ⅲ
「琴音さん、早く行ってください。旦那様が今か今かとお待ちかねですよ」
「っはい!」
思わず出た返事に自分でも驚く。
奏多さんと暁くんに頭を下げて急いで大広間を出る。そのまま廊下を早足で駆け、離れへ続く戸を開けて先に進む。
田部さんを見ていると懐かしい気持ちになる。どうしてだろう…。ただの気のせい…?
源之助さんの部屋の前にたどり着いて、余計な考えを振り払う。襖の前に正座して、おかしいけどノックした。
「誰だ」
「………こ、とね………です」
「琴葉ちゃんか。入っておいで」
聞こえてきた声にびくりとしたけど、次に聞こえてきた声は優しくて、ほっと息を吐く。
襖を開けると、笑みを浮かべた源之助さんと視線が重なる。頭を下げるといいからいいからと部屋に招いてくれた。
「すまないね。突然呼び出して」
「フルフルッ」
「ありがとう、今日呼んだのは、花束を作って欲しくてね。頼めるかい?」
「コクン」
花束?頷いてから想定外のことに頭が混乱する。
それに、花束と言ってもお花もなにもない。お花買ってくるのかな?
首を傾げると、源之助さんは外に視線を向ける。それにつられて外を見ると、そこにあった薔薇に思わず立ち上がる。