私のご主人様Ⅲ
季龍さんが歩き、近づいてくる度に息苦しくなっていく。
自分の体なのに、言うことを全く聞かない手足。まるで金縛りにあっているような感覚だ。
季龍さんが目の前に来ても、顔をあげて視線を合わせることも出来ないまま、その場で固まってしまう。
どうしよう。どうしよう。何か、何かしなければ。動かなきゃ。イスの用意も、お茶も何も準備出来ていないのに。
…いつから、こんな風になっちゃったの?
あの別荘にいたときは、確かに季龍さんの隣で笑えていたのに。心地いいくらい、安心していたはずなのに。
なんで、こんなにも怖いなんて思ってるんだろう。
「…琴音」
「ッ…」
呼ばれた声に、体は跳ねる。
でも、動けない。どうやって、自分の体を動かしていたのか、全く分からない。
ただ、立ち尽くしていた。
そんな私に、季龍さんは不意に背に手を回し、軽く引き寄せられる。それだけで簡単にバランスを崩した私の体は、季龍さんに受け止められ、ぬくもりに包まれた。