私のご主人様Ⅲ

何とか視線をそらし、花を手向けようとして迷う。

これは2つに分けるべきかな…。それとも片方だけに?いやそれもおかしい…。

どうしようか迷っていると、そっちじゃないよと呟く声に振り返ると、源之助さんは立派な墓石には目もくれていなかった。

源之助さんの視線の先を追っていくと、先程目についた人の顔ほどの大きさの岩がある。…まさか。

「そう、彼女の墓はそれだ」

「っ!?」

「よく近づいて見れば分かると思うよ」

源之助さんの言葉にしたがって、恐る恐る墓の敷地内に入り、立派な墓石を避けて岩の前に立つ。

膝を折って距離を縮める。

…黒色のマジック?何か書いてある。よく目を凝らすと、恐らく『南無阿彌陀仏』と書いてある。

側面に目を向けると、亡くなった年や名前が書いてあるように見えたけど、掠れていて読み取れそうにない。

これがお墓?いったいどうしてこんな…。

戸惑いはあるけど、花束をお墓の前に置く。

「琴音さん、これも」

「コク」

田部さんに差し出されたお線香を受け取って、一緒に渡されたマッチで火をつける。

煙が上がったのを見て花束とお墓の間に置く。
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