私のご主人様Ⅲ
立ち上がって横に避ける。
源之助さんはじっと一見ただの岩にしか見えないお墓を見つめている。
「…彼女は、嫁いだ家の墓にはいることを拒否したんだ。それを怒った彼女の旦那は、彼女の最期に立ち会うこともなく、葬儀が終わった途端、彼女を家の庭に捨てたんだ。…お墓に名前を刻まれることもなかった。これは、彼女の息子が用意したらしい。…母親への最期の情けだったのかもしれないな」
「…ど、………して」
「…許せなかったんだろう。正義感の強い彼女だったからね」
源之助さんが浮かべた笑みは自嘲のようにも見える。
…後悔、しているのかもしれない。
大切だった彼女が、死後こんな非道な扱いを受けていることを。…いや、推測はやめよう。
何があったのかなんて私には到底分からない。
それからしばらく口を開くことはなかった。
源之助さんは、心の中で彼女に語りかけているのかもしれなかったから、私もな田部さんも口を閉ざしていた。