私のご主人様Ⅲ
思いの原因
屋敷に戻ってくると、にわかに騒がしいことに気づく。
何かあったのかな…。びくりと震えた体を押さえるように腕を回す。
車は止まって、田部さんが運転席から降りる。それを見て源之助さんが出る反対のドアを開ける。
「ッ!?」
その瞬間、腕を捕まれて強い力で引っ張り出される。抵抗できないまま、引っ張られる力を抑えられず誰かにぶつかる。
離れようとする前に頭に手を回され、きつく抱き締められる。誰かの胸に顔を押し付けられて、身動きがとれなかった。
ドクドクと心臓の音が聞こえる。その音は速くて、まるで走り回った人に抱きついているようだった。
「怪我はないな?」
まるで頭に直接語りかけられているように、声が響く。
頷くと、深く息をついたのが分かる。それでも、抱き締めてくれる手は離れなくて固まっていた。
「わーか、ここちゃん困ってるよ」
「黙れ信洋」
「いやいや、俺からかってるとかじゃないから」
また声が響く。ゆっくり顔をあげると、季龍さんと視線が重なって、心臓が高鳴った。
「季龍、離してやりなさい」
「…親父」
「今のお前にその資格はないだろう?」
源之助さんの言葉に、季龍さんの手がびくりと震える。
すると、私を抱き締めていた手は離れていく。季龍さんから適度に離れ、顔を上げると季龍さんは視線を前に向けていて、振り返ると無表情の源之助さんの姿が見えた。