私のご主人様Ⅲ
考え込んでいると、季龍さんに呼ばれて顔を上げる。
先程よりも近い位置に季龍さんの顔があって、思わずドキリとする。その距離は離れるどころか徐々に近づいてくる。
な、なんで?これじゃ、まるで…き、キスするみたいだ…。
ドクドクと心臓の音が耳の奥に響く。その間にも距離は縮まり続ける。
もう、季龍さんの吐息を感じる。背中に回っていた手がいつの間にか後頭部を支えるように回されている。
―キスされる。
その寸でのところで、沸き上がったのは恐怖だった。
思わず身を引こうと体が後ずさる。季龍さんはその動きに敏感に反応してピタリと動きを止めた。
分かってる。季龍さんは、あの人じゃない。あんな人じゃない。分かってるのに、沸き上がってくる恐怖は消えない。
ガタガタ震え始めた私から、季龍さんの手が離れていく。そのままベッドに腰かけた季龍さんは、私に視線を向ける。
「それでいい。嫌なことははっきり示せ。俺がお前に強制するのは、家事と外出の禁止だけだ。それ以外なら、お前は、拒否する権利がある。自分の感情を押し殺す必要なんかねぇ」
「…ご、めん…なさ…」
「いいんだ。お前を道具にするつもりはねぇって最初に言っただろ」
季龍さんは怒ることなく、淡々と告げる。でも、それが返って落胆させてしまったのではないかと不安にさせた。